(SCS遠隔共同講義「SCS教育工学特講1」資料 1999.7.9)
三重大学教育学部附属教育実践総合センター 下村 勉
1.はじめに
(1) テスト活動の現状
・教師のための情報収集、学習させる手段としての活用。学習改善・授業改善の側面が弱い。
・学習者もテスト得点だけに関心が向き、学習改善の機会ととらえることが少ない
(2) 学習者の自己評価性・自己フィードバック性の重視
学習者には、自らの学習を評価して改善をはかる自己評価性・自己フィードバック性が存在する。そして、教師がそれを育成・援助することは、学習内容の指導に劣らず重要である。
(3) 統合評価法とは
統合評価法とは,通常の理解度テストにおいて,学習者の自己評価(自信度)データを同時に収集して,これを客観評価と統合して有用な情報を取り出す評価手法である(下村・織田1980)。教師にとっては、学習理解度の診断が従来より詳しく行えると同時に,新たに学習者の自己評価状況についての情報が得られる。また、学習者にとっては、自己の学習や自己評価についての改善の機会として役立つ。
2.統合評価法の手順と方法
(1)統合評価法におけるテスト法
テストの実施時において、その解答に対する自信度を○、×の2段階(自信あり、なし)で、各解答ごとに記入する。教師と学習者にあまり負担をかけずに手軽におこなえる。
(2)反応の分類とその意味(理解度の診断)
学習者の自信度と、解答を客観評価して得られる正誤結果とを統合して類型化すれば、表1となる。
表2は、これを用いて各学習者の各問題に対する反応の一覧表を示した。これを自信度−正誤データと呼ぶ。
従来は,解答の正誤による2値的な診断に対し,本評価法では,学習者自身の自己評価情報(自信度)を加味して4値的に診断する(表3)。従来よりきめ細かい診断・処方が可能となる。
(3) 自己評価状況の分類と評価
このデータを学習者ごとに集計すれば、学習者の自己評価状況を知ることができる。
表4には、学習者別集計表の例を示す。自己評価と客観評価とのずれを意味するR2(自信なし・正答)とR3(自信あり・誤答)の出現数に着目して、学習者ごとに、自己評価傾向を定量化する2つの指数,すなわち過小評価指数Iu、過大評価指数Io を定義する。
Iu(過小評価指数)= R2の個数 / 解答数
Io(過大評価指数)= R3の個数 / 解答数
(ただし、解答数=問題数−無答数)
図2に示すようなIu−Io平面に,各学習者について求めたIu,Io値を学習者番号で表示すれば,各学習者の自己評価状況の特徴を図的に把握できる。後述する基準点をもとに一致評価D1 ,過小評価D2 ,過大評価D3 ,逆評価D4 の4つの領域に分類し、各学習者の自己評価状況を評価する。この図を「自己評価図」と呼ぶ。なお,図で,分類の基準点B(Iu,Io)は,自己評価と客観評価が相関のないと仮定したときに取り得る分布の中心であり、計算によってもとめられる。
この自己評価図は数回のテスト結果を累積して追跡したり、プリテスト・ポストテストで実施して変容をみるとよい。図3には、プリテスト・ポストテストで実施した場合の自己評価状況の推移の分類モデルが示してある。これによれば、個別の治療が必要な学習者(III型推移)が明確になる。
(4)問題別集計表とそれによる問題のタイプ分け
問題別に各反応の出現個数を集計し、全体的な出現状況に比べ,どの反応が相対的に多かったかによって,問題がタイプ分けする。分類基準については、ここでは省略する。
この問題別処理は、クラス全体としての理解状況をあらわしているので、教師側の一斉指導やテスト問題の改善に役立つフィードバック情報が得られる(表5)。
表 5 問題タイプによる教師への検討情報
タイプ 学習者に対して テスト問題に対して 授業に対して P1 よくできた やさしすぎないか うまく教えられた P2 類題演習は必要ないか 表現にあいまいなところはないか 強調のしかたは十分だったか P3 誤り例の提示は必要ないか 誤解をまねく表現がないか 誤解をまねく説明はなかったか P4 詳細な説明は必要ないか 難かしすぎないか 説明や時間は十分だったか
(5) 統合評価法データ処理システム
統合評価法のためのデータ処理はパソコンを用いて行うことができる。入力データは、キーボード入力とマークカード入力が利用できる。表計算ソフトも活用可能である。現在、Webを用いた統合評価システムを試作中。
3. 自己評価状況に関する一般的傾向
1) 一致評価領域D1 に最も多くの学習者が分布する。過小評価領域D2 や過大評価領域D3 にもそれぞれ20〜30%が属する。逆評価領域D4 に属する者はまれである。
2) 学習の進展につれ、自己評価状況も改善がみられる。
3) 一般に、女子の方が男子にくらべ過小評価が多い。
4) 学年が上がると、過大評価が減少し、一致評価が増す。
5) 自己評価状況は、学習者の性格や行動特性などとも関連がある。
4.結果の生かし方
(1)個々の学習者のつまずきの発見と個に応じた指導
・統合評価法では、学習者の自己評価を加味することで、従来よりも的確な診断(つまずきの発見)とそれに基づくきめ細かい処方が可能となる。学習者のつまずきが発見できれば指導もやりやすい。それによってより多くの学習者を確かな理解(自信あり正答)へ導くことにつながる。
・学習単元の終了時にだけ利用するのではなく、レディネステスト、形成的テストでも利用してフィードバックするとともにこの間の変容をとらえれば、より有効である。
(2)学習者の理解と自己評価状況の改善への指導
・自己評価図は,教師にとっては過小や過大の評価傾向のある学習者を発見できるので,その学習者の理解や個別指導に役立つ。また,学習者にとっても,自己評価の改善に役立てることができる。
・数回のテスト結果を累積して、個々の生徒を理解するとよい。そして自己評価状況が不適切な学習者にはその改善への指導・助言を与えることも重要である。
(3) テスト問題・指導へのフィードバック
問題別集計表から問題タイプが求められる。この問題タイプに基づけば、問題の性質やクラス全体の理解状態が推測でき、テストの事後指導(フィードバック)、問題の改善や授業の反省の際の手がかりとして役立てることができる(表5)。
(4) 学習者の主体的学習の指導・援助
・統合評価法を実施後の学習者の感想
テスト時の見直しに有効である。/自信の○×をつけると,印象が強くなる(○をつけて間違えたとき)/採点されたテストを見直して反省するときの手がかりになる。/自分の得意な問題,苦手な問題がよくわかる。/自分自身が,どんなタイプかがよくわかる。
・統合評価法の結果を学習者自らが生かすように指導するとよい。学習者自身の評価が加わっているので、テスト結果のフィードバックを受けたときの学習者の関心は従来より高い。
・生徒自身によるつまずきの発見と解消を指導することは、きわめて重要である。その具体的な手だてとして統合評価法が利用できる。
5. 利用上の留意点
1) 学習者に統合評価法の意義を説明し,理解を得ること。
2) 単発的利用や自己評価図の断定的な見方をさけること。
3) 処理結果の解釈とそれに基づくフィードバックをおろそかにしない。
4) 成績づけのためのテスト(総括的テスト)や難しいテストには,多用しない。
6.まとめ
・統合評価法では、通常のテストにおいて簡単に実施でき、実用的である。
・教師だけでなく、学習者にとっても学習改善に有効な機会や情報を提供する。
・フィードバックを目的とする評価(形成的評価)として用いるときには、自己評価を取り入れるメリットは大きい。
・Webを用いた統合評価システムを開発することが今後の課題である。
(付記) 本稿は、平成11年度SCS遠隔講義「教育工学特講」(1999.7.9)のために作成した資料である。
参考文献
1) 織田守矢、下村 勉 教育情報工学シリーズ3 概念形成と評価 コロナ社 1989.2
2) 下村 勉、織田守矢 学習者の自己評価と客観評価との統合評価法 電子通信学会論文誌A Vol.63-A,No.8 1980.08
3) 下村 勉、織田守矢 統合評価法の実践的検討とその応用 電子通信学会論文誌A, Vol-64-A, No.3 1981.03
4) T. Shimomura, M.Oda, K.Senda Study on Experimental Application of Unified Evalutation Method in Educational Technology. The Transactions of IECE of Japan, Vol.65-E,No.11 1982.11
5) 田丸百合子 統合評価法が示唆する授業改善について 日教組第38次教育研究集会報告書 1988
6) 鈴木正美 正誤-自信度反応による「理解度」診断に関する研究 長期研修(上越教育大)報告書 1991
7) 田中孝治 統合評価法を利用した簿記教育 三重の商業教育 '96第33号 1996
8) 長谷川勝久 自己評価力を育てるKR情報に関する研究 日本教育工学会第14回大会講演論文集 1998.9
(c) Tsutomu Shimomra 1999.7.6 作成