インターネットの教育利用のための諸課題の検討と利用支援システムの開発

            (これは、全150ページの報告書の要約版です)

下村 勉、織田揮準、須曽野仁志、若松孝慈、早瀬光秋(以上、三重大学教育学部)
鷲尾敦(高田短期大)、白井靖敏(名古屋女子大)、高瀬進(三重県総合教育センター)
藤川和重(三重県地域振興部)、元坂基弘((財)三重社会経済研究センター)

まえがき

 教育の国際化・情報化の流れの中で、学校教育へのインターネットの本格的な導入が行われつつある。三重県も「デジタルコミュニティズ(DCs)構想」を掲げ、情報先進県をめざす試みが行われつつある。しかし、三重県の現状においては、インターネット環境が整備されているところはまだわずかであり、学校でWebページ(ホームページ)を作成して情報発信しているところも少ない。今後、インターネット環境の整備は進むと考えられるが、その活用に際しては、さまざまな諸課題が山積するが、それらはまだ十分に検討されていない。

 そこで、本研究では、インターネット環境をどう整備すべきか、どのように活用すべきか、Webページによる情報発信はどのように行うのか、どのようなサポートが必要か、といった諸課題を三重県の実状や条件を考慮して実践的に検討することを目的とした。そして、サブテーマを設定して、サブテーマごとに各グループで研究を進めるとともに、計6回の全体会を経て研究報告書としてまとめた。

 本報告書の構成は次のようになっている。

第1章では、まず、三重県における先導的なインターネット利用プロジェクトについて紹介し、三重県のインターネット導入・活用の現状を、公開されている資料から整理した。また、三重県外での先進事例の内、実際に推進者を訪問して経験をうかがったり、授業実践やシステムを視察し、興味深い点、学ぶべき点について分析整理した。

第2章では、三重県の先進の実践校や個人的にインターネットを利用している教員に対して、インターネットの導入・利用についてアンケート調査を行い、その結果を分析して、課題を明らかにした。今後に導入・活用を予定している学校においては、今後、遭遇するであろう問題や対処法などが含まれているので、先行経験として有効である。

第3章では、教師が開発した自作教材をWeb上に公開して、共通利用することをめざした試みを通して、その意義や問題点を明らかにした。英語教材を例に、教材の共通利用の現状の調査、Web上への自作教材プロトタイプの公開を行い、教材の分類の重要性や解決すべき最大の課題としての著作権問題を具体的に指摘している。

第4章では、インターネットによる発信機能に着目して、新しい学力としての「情報発信能力」の育成をねらいとしている。具体的には、情報発信型学習の意義、その具体例としての「参画型Webページ」の作成実践例を紹介し、そのためのWebページ作成研修会の進め方を実施例とともに提案している。

第5章は、インターネットの教育利用を促進するために発足した「三重インターネット教育利用研究会(MIEUP)」の活動を紹介し、その中心的な活動であるメーリングリストの分析と支援ネットワークの有効性を検討している。

1. 三重県におけるインターネット導入・活用の現状と先進事例の分析

インターネットの教育利用のための諸課題の検討を行うため、まず、三重県内のインターネットの導入状況や活用の現状を調査するとともに、先進事例の分析を行う。

1.1 三重県内のインターネット導入・活用の現状

ここでは、まず、三重県におけるインターネット利用のプロジェクトの内容をインターネットや公的報告書に記載されたいわゆる「公開データ」に基づいてまとめた。

1.1.1 インターネット利用プロジェクト例

a.100校プロジェクト・新100校プロジェクト

「100校プロジェクト」は、初等中等教育におけるネットワークの利用により、教室での授業が持つ様々な制約を超えた教育、学習の実現を目指して文部省、通商産業省の指導のもとにIPA(情報処理振興事業協会)とCEC(財団法人コンピュータ教育開発センター)との共同で、全国約100校を対象校として実施された事業である。平成6年度にスタートし、平成8年度に新100校プロジェクトに引き継がれて平成10年度まで続いた。

  対 象 校:県立飯野高等学校

b.こねっと・プラン

 「こねっと・プラン」は、世界の先進国の急速なマルチメディア化を背景に、21世紀を担う子どもたちの育成を目指し、「教育でのマルチメディア環境の整備と活用」を推進するプロジェクトとして、文部省、郵政省の協力のもと、NTTをはじめ多くの企業・団体・個人から成る「こねっと・プラン推進協議会」が活動主体となり、平成8年度からスタートした。全国で、約1000校が参加し、内、本県では20校が参加している。

  対 象 校:楠町立楠小学校、上野市立緑ケ丘中学校、県立桑名工業高等学校 他

c.ティーン・エイジ・ウォーカーズ・プロジェクト(DCs実験事業)

Teenage Walkers Projectとは、情報ネットワークを利用して、世界中の10代の子どもたちが自由に国際交流活動を行える機会を設けることで、国際社会における異文化相互理解・共存を深めていくことが基本理念とされている。

  この事業は、平成9年3月に三重県が策定した「21世紀三重情報化社会推進プラン」の中でうたわれている、情報化を活用した豊かで潤いのあるネットワーク社会であるデジタルコミュニティズの創造をすすめるため、平成9・10年度デジタルコミュニティズ実験事業(DCs実験事業)の一環として行われた。

  対 象 校:鳥羽市立答志中学校、私立メリノール女子学院中学校・高等学校、

        松阪市立西中学校、県立名張西高等学校

d.学校間交流パイロット事業(DCs実験事業)

  本事業は三重県内のモデル学校をインターネットで結び、インターネットの教育現場での利活用の有効性を明らかにする。また、インターネットを補完するマルチメディアTV会議システム(Phoenix)の教育現場における有用性についても検証することを目的とし、平成9・10年度DCs実験事業の1つとして実施された。

  対 象 校: 県立杉の子養護学校、美杉村立美杉南小学校、南島町立南島中学校、

        県立みえ夢学園高等学校

1.1.2 インターネット利用実践校の概要と今後の計画

三重県内のインターネットの利用校の一覧表(約80校)をあげた。平成10-11年度で全公立学校にインターネットを接続させるための整備計画が実施中である。

1.2 三重県外の先進事例の分析

 学校へのコンピュータの導入やインターネット環境の整備が教員や児童・生徒にどのような影響をもたらすか、新しい形の情報教育プロジェクトに取り組まれている教員、学校における情報通信環境の整備という面からハード、ソフトを支える方、また、実際にその環境の中で活用している現場の教員、という様々な立場の方々に話をうかがい、調査を進めた。

1.2.1 メディアキッズ

 「メディアキッズ」は、産業界等の資金援助を得て平成6年度にスタートした「インターネットで結ぶ学校間交流プロジェクト」である。このメディアキッズ は、参加校の子どもたちすべてに電子メールアドレスが与えられ、子どもたちが簡単かつ自由にネットワークを利用できる環境を提供する点、教師の自主的参加により、様々な交流活動が行われる点に特徴がある。

 この中心人物である中川先生によると、プロジェクトを進めるためには、「テクニカルサポートの体制づくりが重要」であり、「電子メールやブラウジングだけでは続かない、パソコンの向こうにいる人との協働作業が重要」、「むりやり押しつけない」「学校対学校では続かない、子どもにとっては交流を進めるための必然性が重要」で、「継続していくためには、教員のバックアップが重要、ネットワークのモラル形成が重要」「パソコンは各教室へ置くべき」ということだ。そして、教員は、「子ども一人ひとりの行動に目を向け、芽を伸ばす」ことをしていけば、ネットワークの主役である子どもたちは「ネットワークを活用して自分たちの存在を確認するようになる」。

 中川先生は、「学校の主役は児童・生徒であり、教育は与えられるものではなく、児童・生徒自身が学び取るものである。」ということを基本においており、その上で情報教育を行おうとしている。先生の話をうかがい、今後の「情報化社会における教育」という姿が見えてきたように思う。

1.2.2 スクールネットワーク支援システム(Kids on the net)

 国の補助金を受け、第3セクターのケーブルテレビ局「ひまわりネットワーク」が教育用のアプリケーションを開発・導入を進めている。このプロジェクトは学校側からではなく、民間企業から教育界へアプローチしている点で新しいプロジェクトと考える。このプロジェクトの推進者である久保江氏は、実施にあたって、市内全小中学校で取り組むためのハードルを低くするため、「技術的・ソフト的なサポート体制の確立とクローズドなメールシステムの整備」を行った。

 また、いきなり、インターネットに接続して情報化を進めていくという手法ではなく、電子メールの使い方をはじめ、情報コミュニケーションの利点を先生方に普及していく、ということから始めた。

 このような今回の進め方は、ハード的・システム的な面でサポートが確立されており、教員の負担が少なく教育委員会全体で取り組んでいくための一つのモデルといえよう。ただ、このプロジェクトの実施にあたっては、技術面、ソフト面で人的なサポーターがかなり必要であり、今回はボランティアであったが、本格的な運営にあたっては、その点の予算措置等をどうしていくか、という課題があるということを付け加えておく。

1.2.3 蒲郡市先進小中学校の視察調査

 前節のシステムが実際に現場でどのように利用されているのかを知るため、これを導入している蒲郡市内の小・中学校教員に話をうかがった。

 それによると、「導入当初、教育現場は混乱」し、教員側は「アダルト情報を心配、ネチケット教育が重要」という点に気づいた。そして混乱の中から子どもは一つの世界が増えたと感じたし、教育委員会も情報運営組織を設置した。今回のプロジェクトがなかったら行政的な組織はまだ確立されていなかったであろう。

 実際に教員は「数学や理科、社会見学にも活用」しており、「子どもと校長先生との電子メールによる交流も」はじまり、様々なコミュニケーションが生まれてきたようである。

 最近、全国的に学校へのインターネット環境の整備が急速に進められており、教育委員会として事前に、あるいは事後にどういう組織的な活動を行っていくのか真剣に検討する必要がある。環境整備とあわせて、教育委員会として運営面での活動指針の作成や組織づくり、人的配置が進められていくことを期待したい。

1.2.4 先進地調査を終えて 

 今回、様々な立場からの話をうかがい、すべての方がインターネットを活用した情報教育に対して寝食を忘れるほどに取り組まれており、頭が下がる思いがした。

 昔から子どもの学習能力を向上させるため、教員は様々な工夫をしてきたわけだし、文部省、教育委員会も様々な改革を行ってきたのであり、繰り返しになるが、学校にコンピュータやインターネット環境を整備したからといって、教育環境が直ちにより良いものとなるわけではない。「子どもを育てる心」を教育関係者をはじめ保護者、地域住民、産業界の方みんなが持って、学校あるいは子どもたちを支えていくことが、当たり前の結論になってしまうが、重要なことといえよう。今回調査させていただいた方々は、もちろんその心を一番に持ち合わせていたし、このような方々と志を同じくする方々が協力し、また、様々な分野の方々の協力により、「情報化社会という次代を担うこども」が育まれていく、そんな社会が形成されていくことを期待する。

2. 先進の実践校および教員へのアンケート調査による課題分析

学校におけるインターネット教育利用の問題点や課題等を探るため、三重県総合教育センター主催の情報教育シンポジウム(1998/11)参加者を対象とした「インターネットの教育利用に関するアンケート調査」と、Webによる記述を中心とした学校向けの「インターネット導入および運用に関するアンケート調査」及び教員向けの「インターネットの教育利用に関するアンケート調査」(調査期間1998/12〜1999/1)を実施した。

2.1 情報教育シンポジウム参加者へのアンケートの分析

アンケート回答者は、情報教育シンポジウムに出席した三重県内の小、中、高の教職員等で有効回答は71である。インターネットを利用している割合は71.8%と高く、利用していない人全員がインターネットをいずれ利用すると答えている。メールやWWWの利用者が多く、特にWWWの利用者は、インターネット利用者の9割を越えているが、発信者は、24%と低い。インターネットを仕事(教育)目的で利用している人は接続者中78.4%で、一般のインターネット利用調査に比べかなり高い。勤務校でインターネットを利用している人は回答者中46.5%であったが、その中でサーバのID等を得ている人は4割に満たない。

インターネットを利用している人の45.1%が授業で利用している。年代別では20代、校種別では中学での利用が少ない。授業内容は、E-mailやTV会議システムによる交流、Webを利用した調べ学習、Webによる発信などが主なものである。逆に、授業で利用ができない理由として、ほとんどが設備が十分ではないことをあげている。

インターネット接続者の約2割が教育研究プロジェクトに参加、約4割が希望している。インターネット利用者は、インターネットの影の部分について有害情報、個人情報、著作権、マナーの問題、これら諸問題の生徒への指導方法など多岐にわたって課題としている。インターネットに関する校内研修は、インターネット接続されている学校の6割弱で実施されており、校種別では小学校での実施率が高い。校外研修への参加者は約8割で、ほとんどの人が公的機関で研修を受けている。希望する研修は、インターネットの教育への活用方法が特に多い。インターネットを教育に利用する際に得に重要と考えるものとして教員や生徒が自由に使えるインターネット環境(ハード)と自由な接続を保証する回線費用と答える人が多い。授業利用している人は生徒の環境を特に重視しているのに対し、授業利用していない人は教員の環境や教員のゆとりを若干重視している。自由意見では、急激なインターネットの教育への流れに対し一歩立ち止まって考えるべき旨の意見もあるが、環境整備を進めなければという意見が圧倒的に多い。

2.2 Webページを利用した記述式アンケートの分析

Webを利用した学校向けおよび教員個人向けのアンケート調査は、現在すでにインターネットを導入して実際に教育利用をしている学校や個人を対象とし、聞き取り調査に近い形の記述式とした。調査期間に回答が寄せられた学校は、小学校5校、中学校3校、高等学校9校の合計17校、教員個人は、小学校11人、中学校3人、高等学校12人の合計26人であった。

インターネットの導入や運用、教育利用等に関する委員会組織のある学校は、高等学校5校、中学校2校、小学校2校で、全体として約半数の9校であった。インターネットは学校外との情報通信が中心になるので、誹謗中傷、陰湿ないじめや嫌がらせ、著作権違反による莫大な慰謝料の請求、外部からの破壊工作など、様々な問題が発生する。委員会を持たない学校が単なる機器の導入程度の感覚でしか捉えていないとしたら寂しいが、現状では実践が不十分なので問題点がよくみえていないとも思われる。

回線接続については、ほとんどの小・中・高等学校がダイヤルアップ接続で、大学から専用線を引いている国立を除いて2校(高校)のみが128kの専用線接続であった。そして、グローバルIPを取得して校内に専用サーバを置いている学校は、高校で4校、小・中学校は3校であった。学校ではインターネットに複数台のコンピュータを同時に接続することが普通なので、回線は太く高速なほど快適であるが、現実はきびしいようである。

校内でLANを構築している学校は高等学校で7校、小・中学校で3校あった。しかし、インターネットサーバを設置したり、校内LANを構築すると、本来の学校業務とは別に管理者の負担が増大する。問題点や悩みの多くに「一部の教員に仕事が集中する」との意見があり、現実はなかなか難しいが、仕事が増える分、これまでの仕事内容を再編成し合理化しないとどうにもならない。ネットワーク管理業務は教員ではなく、企業からの技術者派遣制度の導入も視野に入れる必要がある。

サーバを設置すると、利用アカウントやE-mailアドレスを発行して、教員や児童・生徒が自由にネットワークを利用できるようになる。これらの発行状況をみると、教員にはほとんど制限なしで発行されている。生徒へは、高等学校の情報系学科やクラブ活動に関わって特定の条件下で発行されているケースがいくつかあった。特に、児童・生徒の利用については何らかの規定が必要だが、インターネットの導入を始めて間もない学校が多いので、規定を設けている学校は中学校1校、小学校1校のみできわめて少ない。また、今後検討する予定の学校が高等学校1校、中学校1校ある程度でちょっと寂しい。

インターネットを利用した授業は、これまでのコンピュータ利用教育に比べ多岐にわたっている。特徴的なものとして、小・中学校での「調べ学習」や「総合学習」、中・高等学校での「英語」を中心としたコミュニケーション利用などである。インターネットは利用者が積極的にアクセスして初めて真価を発揮するので、児童・生徒が自ら学び、学び合うような学習環境を整えることが大切である。一方的な押しつけや与えるだけの教育を変える最高のツールになるのではないだろうか。一方、インターネットで検索した写真や文章が簡単にダウンロードできるので、著作権についての認識があまくなるので注意したい。

 多くの教員が、インターネットを利用した授業には必ず支援が必要だと答えており、授業内容とは別にコンピュータ機器の操作指導や、授業中での機器トラブルの対処におわれることがあり、授業者ひとりでは対応が困難である。これからは、積極的にチームティーチングなどの手法を取り入れていく必要がある

学校でWebページを作成し、また、それを公開している事例として、学校紹介、クラブ紹介、生徒会、同窓会、選抜要項(高校)、教材、指導案(小中)生徒の活動の紹介、児童作品紹介(小)、教員紹介、掲示板などの回答があった。学校からのWeb発信については肖像権や著作権に十分注意し、必要に応じて保護者と密接にコンタクトし十分な理解をえる必要がある。

校内研修について、高等学校5校、中学校3校、小学校4校で何らかの形で行われている。ほとんどが、ブラウザやメールの使い方、Webページの作成法などである。校外の研修に関しては、日常の業務におわれて研修にでられない教員は多いが、参加しやすい雰囲気はあるようである。インターネットの教育利用については、一つの学校や教員個人の力では解決できないことが多い。したがって、研修会やプロジェクト研究は大きな役割を果たすものである。研修会の内容は単に機器の操作のみに終わらず、インターネットを利用した授業実践交流、情報交換など、実質的なものが要求されている。

いち早くインターネットを導入し、実践し、何らかのプロジェクト研究に参加している先進的な学校であるにもかかわらず、調査結果では担当者や実践研究者に負担がかかり、決して学校全体として機能しているようには見えてこない。逆に、インターネットの教育利用に興味・関心が強く、精力的な教員がいても、市教育委員会がインターネット接続を許可していないケースもあった。インターネットに接続して校内にサーバ群を設置して、LANを構築してどれだけのメリットがあるのか、授業の改善がどれだけ可能か、労力に見合った成果があるのかなど、多くの実践研究から学び、それらの内容や成果を示していかないと、実際には教職員全体や教育委員会等との共通理解を得るのが難しい。そのためにも、学校でコンピュータやインターネットが自由に使える環境の整備や、中心となる教員の時間的なゆとりを確保することが重要である。

3.インターネットによる自作教材共通利用システム開発―英語教材を例として 

本章では、教師が作成した教材・プリントなどをWebページで公開して他の教師の利用に資するシステムを開発し、そのプロトタイプを構築することを目的とする。さらに、システム開発にあたって必要な手順を確立し、さらにそれに伴う問題・課題を整理したい。

研究の手始めとして、教材共有の現状について考察した。まず、ハードコピー教材の共有であるが、時間的要因、物理的要因、心理的要因などがネックとなり学校内、地域内などで思ったほど行われていないようだ。次に Web上における教材の共有については、時間と空間を超えて共有できる、デジタルデータなので加工がしやすい、個に応じた教材を作りやすいなどの理由で、メリットが多そうであるが、現状を英語教師を対象にアンケートにより調査した。回答数は16と多くはなかったが、興味深い結果やコメントが得られた。英語教育に関するWebページを発信している人は10人であった。ただし、発信はしていても自分の発信した情報の利用状況、有用性などに関する情報が十分に発信者にフィードバックされていないことがわかった。さらに、このアンケートに回答した教師は、教材の共有化に関する意識が高いと思われるが、それにもかかわらず他の教師によるWeb英語教材の利用率はそれほど高くなかった。また、検索も難しいと感じているようである。こうして見てみると、Webは、自習英語教材共有化とそれによる英語教育の改革のツールとして、まだまだ充分な機能を発揮していないと言えそうである。我々の研究の必要性を再確認する結果となった。また、「有益な英語教材の検索が決して容易ではないこと」、「授業実践の報告が望まれていること」、「多種多様な学習者の要求に応じられる相当量の教材量の準備デ−タベ−スが求められていること」などがわかった。

自作教材をWebに載せる場合、その分類法は重要であり、検索しやすく、使いやすくなければいけないが、その方法としては文法・文型事項別、概念・機能別、場面別、素材別、自然習得順序、教授法別などが考えられる。我々は利用形態として、「教科書補助的利用」、「素材的利用」、「基礎的利用」を認めた上で、中学校の部では、文法・文型及び素材をもとに自作教材を分類した。高等学校の部では分類を機能・場面・文法・指導・練習形態例に分け、cross-referenceできるようにしているのが特徴である。中・高どちらの部でも、利用者はそれぞれの項目をクリックすればその関連の自作教材が見られ、必要に応じてダウンロードして授業などに使えるようになっている。次に我々が作成したWebデータベースの中から例を示す。図3-1は中学校データベースの扉のページであり、図3-2は高等学校教材の一例である。

 図3-1中学校データベース、扉のページ        図3-2 高等学校教材の一例

 作成された Webページは利用者にとって見やすいものでなければならない。そのために、効果的な教材提示の工夫とWebページデザインについて留意すべき主な点を箇条書きしてみる。

* ページの背景にコントラストの強い画像を使うと、文字が非常に読みにくくなるので使わないほうが無難である。

* 12インチのノートパソコン利用者を考慮に入れると、ホームページの幅は狭くデザインすることが好ましい。

* スクロールはしても同一画面の縦2〜3倍が限界にデザインしたい。

* スキャナから取り込んだ教材は、読みとれる程度の画質は残しながらも、可能な限り情報量を減らす必要がある。遅いモデムを持つ利用者に配慮するためである。

Web上での教材共有における問題で一番大きいのは著作権のそれであろう。そこで我々は2つの英語の教科書会社に、文書で全面的な教科書利用をお願いした。その結果は残念ながら否であり、教師の日頃作成しているプリント教材等を自由にWEBに公開して使いあったり、批評しあったりして力量を高めていこうとした道は、今のところ著作権の壁により閉ざされてしまうことになった。しかしながら、今後とも、教科書会社とも協議を続けなんとか妥協点を見いだし双方にとって有意義になるような研究を目指したい。具体的には制作者と利用者が共に教材研究し教材を交流し合う中で、洗練された教材ができてくるという「インターラクティブな英語科教材データベース」を作る環境を模索していきたい。                         

4. 情報発信型学習のための参画型Webページ作成支援システムの開発

4.1 インターネットを用いた情報発信型学習

 従来のメディアは情報を一方的に伝えるものが多かったが、インターネットは、インタラクティブ(双方向的)な情報伝達機能を持っている。Webの教育利用においては、情報発信型学習を実現するためにWebページを利用することが望まれる。

 インターネットを用いて、情報発信型学習を実現するためには、

・教師の役割では、「教授する」「教え込む」ということより、「学習を支援する」という活動を重視すること

・「教材」としてWebページを利用するより、「学習材」として学習成果をページにまとめること

・Webページの利用では、教科の枠組みを超え、総合的に学習すること

・プロジェクト型の学習実践を協同で推進すること

など、従来の教師主導・教科中心の一斉指導からの発想の転換が様々な面で必要である。 

4.2 「参画型Webページ」の考え方とその作成実践例

「当該のテーマに関心を持つ人々の参加協力によって作成・発信されるWebページ」を「参画型Webページ」と呼び、三重大学教育学部の授業において、その作成を進めた。

「まちづくり・人の輪づくりを応援するWebページ」は、大学院の教育工学関連授業(下村担当)の中で作成された。これは、学校における「総合的な学習」と地域でのまちづくりとの連携をめざして、学習者が、地域のまちづくりなどに貢献している人や団体を取材して、その内容をWebページにまとめて情報発信し、まちづくり・人の輪づくりを間接的に応援しようとするものである。

「三重県総合学習素材データベース」は、学部生を対象にした授業(須曽野担当)の中で作成された。大学生が三重県内の小中学生のために「総合的な学習」に関する情報を集め、協同で参画型Webデータベースを作成した。作成には、Webページ上で情報の公開が可能なデータベースソフト「ファイルメーカーPro4」が用いられた。授業でとり組んだ結果、三重県に関して、松尾芭蕉、御木本幸吉といった著名な人物に関する情報、松阪木綿、伊勢型紙など地域の産業に関する情報など、全部で151件の情報が登録され、Webページ上での情報の検索が可能となった。

「参画型Webページ」の作成にとり組んだ結果、

・学習者がページ作成の作業を楽しみながら行ったり、学習者の興味が派生的に広がることが望ましい

・学習者が入力した情報には偏りがみられ、ページの内容を改善していく

・Webページの作成・活用を通じて、情報活用能力や発信能力を育成していく

・地域や学校の特色をWebページの作成に反映していく

などの成果と課題が得られた。

4.3 Webページ研修会の実施と研修会テキストの開発

インターネットの体験講座・研修において、Webページの散策・検索だけでなく、Webページによる情報発信を体験し、その意義や喜びを実感することを達成目標に置いた次に示す研修会を実施した。

(1)インターネット入門-ホームページを作ろう- 教育関係者・市民一般対象

(2)中学生のためのインターネット入門教室 中学生対象 

(3)教育管理職のためのインターネット入門 教育管理職対象

研修会実施のために、研修会テキスト・資料を作成したり、Webページ作成支援ソフトを用いたページ作成法について検討した。短期間の研修においてWebページの作成までを行うには、適切なテキスト・資料、複数の講師補助者、進め方の工夫などが必要である。今後、研修会受講者のフィードバックから、作成したテキストや研修会の進め方をさらに改善していく必要がある。         

5. インターネットの教育利用のための支援ネットワークの有効性

5.1  三重インターネット教育利用研究会(MIEUP)

 インターネットの特徴を生かしながら、インターネットの教育利用の推進を支援する自主的な人的ネットワークが作ることをめざして、1998年4月に「三重インターネット教育利用研究会(Mie Internet Educational Use Project, 以下、MIEUPと略す)」を設立した。事務局は、三重大学教育実践研究指導センターにあり、1999.3現在、会員は65名で、小学校から大学にわたる教員を中心に、企業人、行政職、学生と幅広い層が参加している。

活動内容は、「メーリングリストによる情報交流」、「オフラインミーティング」、「MIEUPのWebページ作成」、「ワーキンググループによる活動」などである。活動の中心は、メーリングリストであり、1999.2.24現在のメールの合計は、1376通であり、月平均125通のメーセージが行き交っている活発なメーリングリストである。この詳細な分析を次節で述べる。

Face to Face のオフラインミーティングの意義は重要であり、本MIEUPでも、同じ三重県内であるという利点を生かして、これまで6回開催した。また、メンバー間での情報共有の必要性から、MIEUPのWebページを作成して、次のURL(ホームページアドレス)で公開している。http://133.67.91.250/mieup/index.html。

5.2 MIEUPメーリングリストの分析

ここでは、メールリングリストに流された、設立時から11月9日までの1000通メールについて、発信者及び発信の流れを中心に分析した。

図5.1は、日別発信数である。一般のメーリングリストが経験する「最初に盛り上がって、その後急速に落ち込み、やがて中心メンバーが固定されて定常状態に落ちつく」形とはならず、活発な意見交換が続いている様子がわかる(1999年3月現在も続いている)。    

    図5.2-1 MIEUPメーリングリスト発信数(日別:1998/3/30-1998/11/9)

 これは、メールの発信数が少なくなる頃、タイミングよく新しい話題が発信されている。話題は「自己紹介」、「メーリングリスト事務連絡」、「質問や回答」、「発表会、研究会の案内」、「授業や交流実践」、「ネットワーク技術」などで、会員の一人から一つの話題が発信されると、数人の方々の反応がある。また、話題を提供し、中心となる会員が極端に固定しないことも大きな要因だが、最も重要な仕掛けは「オフラインミーティング」の開催だと思われる。電子情報のみのつき合いでは、相手の顔も声も性格も分からないので、どのような形で話題に入り込むかが難しい。MIEUPでは、Face to Face の意義を重視して、オフラインミーティングを開催・奨励してきた。この点の実証を含めて、次に会員からの声を中心にメーリングリストの有効性を検討する。

5.3 MIEUPメーリングリストの有効性

「MIEUPに参加して良かったこと」をメンバーに問いかけたところ、多くの回答が寄せられた。以下にその一部を紹介する。

・ 「地域限定の良さは、メンバーとのオフライン会がもてることです。それも、MIEUPとしてのオフ会に加えて、別の会議でもたまたま会うことが頻繁に起こります。それが、MIEUPの大きな良さだと確信しています。

・ テレビや雑誌に載っている研究推進校の実践ではなく,近くの学校の研究や実践なので、勤務校の職員に提案するときなど例に出すと現実味がある。また、声をかけてもらうと、近くの学校なので気軽に授業を見せてもらいに行ける。

・ 学校の教師だけでなく、いろいろな職業の方が参加してみえるので幅広い意見が聞けるのでたいへんよいと思います。

・ サロンというサーバの名前が示すように、雑談のなかにも、と言うより、雑談であるあからこそ、日々の悩みや本音が飾らず元気に語られており、カウンセリング的な機能も果たしているのか、いい雰囲気をかもしだしているのではないでしょうか。

・ 他のメーリングリストに比べて、エリア的にも一日に入るメールの量的にも丁度よい。毎日、このMLを最初に確認しています。

・ 気軽に質問でき、技術的な支援を受けることができた。

MIEUPに参加して良かった点として、「地域密着型のメーリングリストの良さ」を上げる人が多かった。また、「幅広い意見が聞けること」を上げる人も多かった。この点では、この会の発足の当初のねらいはある程度達成でき、順調に滑り出した1年間であったといえよう。「自由に発言できる雰囲気があること」は、大変重要な要素であり、今後も保ち続けていきたいものである。「このメーリングリストが適当な規模であること」の指摘は、言われてみて認識したことがらであった。また、インターネット利用の実践校(モデル校)への支援は、MIEUP発足のきっかけの一つであった。モデル校にとって、MIEUPは役立つ存在であったが、逆に、モデル校での実践がメーリングリストに報告されることで、活性状態を保つことにも役立つという相乗効果が指摘できる。  

あとがき

 研究を進めてみて、インターネットの教育利用の可能性の大きさを実感するとともに、解決すべき課題も多いことをあらためて感じた。本研究成果を生かして、今後ともさらに研究を続けていきたい。

最後に、本研究を実施するにあたり、下記の方をはじめとして、たくさんの方々から、協力をいただいた。ここに感謝するとともに、本報告書が、今後のインターネットの教育利用に役立つ貴重な資料として活用されれば誠に幸いである。

研究協力者(敬称略) 中川一史(横浜市教育委員会)、平山欣孝(みえ夢学園高等学校)、斎藤暢久(名張西高等学校)、長谷川元洋(三重大附属中学校)、近藤泰城(川越高等学校)、中川祥司(桑名市立成徳中学校)、林敬泰(松阪市立中部中学校)、荒木淳司(四日市市立笹川東小学校)



1999.3 三重県高等教育機関連絡会議 発行
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